クロール
遊佐




海面を泳ぐ光の青を捕まえようとして手を伸ばしてみる
伸ばしても
伸ばしても
届かない両手をばたつかせて
それでも懸命にもがく君の
溺れそうな
沈みそうな平泳ぎが僕は好きなのさ

夏はもう、
すぐ其所に在り
青い光のカーテンを潜れば
水の上のいたる所に揺れている
キラキラの無数の煌めき
ユラユラ揺れる好奇心の輝き


諦めを決めて膝を抱いたままならきっと
何処までも
何処までも
深く沈んでしまうだろう
恐れを抱いて
其処に漂い続ける危なっかしい君の立ち泳ぎが
今の僕には懐かしくもあるのだけれど


泡になってしまうかも知れないなんて
でもそれは
おとぎ話のお話で
海の懐にに抱かれた君は
ただ、知らないだけで
胎内で膝を抱えたまま時を待つ赤子のように弱々しく映る

すぐ其処に在る出口を抜ければ
降り注ぐ陽射しが
駆け巡る風達が
世界中のありとあらゆる扉の鍵を授けてくれるだろう


両手を開き
ゆっくりと
不器用な手つきで
もがきながら
真ん中を目指して泳ぐがいい


いつか、水面で波を切り裂いて
誰よりも速く泳ぐ君を僕は夢見ているんだ


いつか、波を捕まえて鮮やかにクロール、

を…。




自由詩 クロール Copyright 遊佐 2009-06-28 21:29:07
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