「草原の像」
月乃助


いつの間にか夕餉の団欒の食卓に
像がやってきていた
別段大きくもなく、それで、多分誰も気づかなかった
そこで、
家族会議を開いて詳細を検討してみる
鼻はさして長くなかったが
耳は大きく
歯も八重歯が、牙らしいので、とりあえず
像と言うことで決着した。
種類は、「たべない像」というのはみな分かったので
それは、それで仕方ないと思うことにした。
別の呼び名があっても、たいして変わりはなさそう
だった。

「たべない像」は、最初はちゃんとおいしそうに
なんでも、食べていたので、誰も気づかずにいたらしい
それでも、日がたつにつれ食欲は失せ
細さを増す像は、
手首がもう骨を浮かべていた。

そこで、また、親族会議を開き、
その対策を講じたが、
その理由は、何か「たべない像」が、
自分のことを鏡に映すと、太って見えるとのことで、
家の鏡や窓ガラスのすべてを取り去り、窓から捨てた
そのために、家には窓ガラスがなく
ひどく寒い家になった
家のまわりはガラスの破片だらけで、近所から苦情がきた。

それでも、
「たべない像」は、食事をせずにやせていった
どうやらそれが、学校でのイジメが原因だと
それが、分かったころには、
「たべない像」は、もう歩くこともできずに、
ただ、笑ってベッドの中にいた。
そして、枯れるように
「たべない像」は、この家からいなくなった。
みなどこかへ逃げたのだろうと、そう願った。

幸せな草原を元気に駆け回る姿を
思い浮かべ
そこで、幸せに暮らす像は、
本当に鼻の長い、大きな耳の、
像の姿になっているに違いない。

「たべない像」のクラスの先生と子供達が、
花を持ってやって来た時、
家族会議は、一同にその花を投げ返し、
力の限り踏みつけた。
先生も子供たちも、驚き、それでも、
怒って帰っていった。

「たべない像」は、それをどこかから
見ていた。
草原に陽が落ちて、赤く染まっていた。
何か悲しくなって、涙が落ちた。




自由詩 「草原の像」 Copyright 月乃助 2009-06-27 08:10:13
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