蛍を追って
竜門勇気
Tシャツを着て
日暮れの街を歩いて
何かを得てるつもりなんだ
ばかみたいだろ
まるで
人みたいだろ
普通の人みたいだろ
後ろポケットから
ブルースハープを取り出しても
射殺されない程度には平和
こんくらいでちょうどいい
ビルの隙間は日向
今日の六時半過ぎまでは
それぐらいまでは
誰にも咎められずに
おてんとさんを嫌っていられる
行方しれずの安心と
用途不明な不安定
コルクボードで交わしてる夢や幻の話
うんうん頷いた
誰かが僕の口元からハープを奪っても
うつらうつら
猫が泳ぐ空想
天空を転がるボール
雲が吹くトランペット
死ななかった兵隊
ああ みてくれ
こんなだけど
立派に死んでいける
すべての家畜は食われるために
生きているわけじゃないし
死ぬまで死にたくはなかった筈なんだ
たとえ
死の後を考えれたとしたって(そんな知能はないけどよ)
誰かに残さず食われたいなんて望んでないのさ
僕だってそう思ってる
きっと彼らだって(そんな知能はないけどよ)
死ぬまで生きていられたら
どんなに素晴らしいだろう
どれだけ君になにかしてあげられるだろう
でもいま
僕は死んでいく
黙ってると口の中がむずむずして
頭がおかしくなったのかと不安になる
酩酊したくても
死にたくなきゃ飲むなの一点張り
ぼつぼつその時が来るのか
突然何かが切れておしまいか?
怖がってるのが不自然なら
受け入れるのだってまともな神経じゃないぜ
経験と理性が真夜中の鐘を鳴らす
僕の中の全てが目を覚まして
天井との我慢比べを承諾する
頭痛はこない
それだけが奇跡で
後の全てが奇跡ではないこと
フランネルシャツを羽織って
朝の夜を歩く
野鳥と人の割合を探って
嫌になって
メガネを屑篭につっ込んだ
なんでこんなに看板だらけなんだよ
つまらない疑問が
まぶたの近くで右左に揺れてた
今は屑篭のメガネに群がってるよ
多分
心の底まで見渡せる
澄んだ水が満ちて
るのか
ただ乾ききってるだけか
答によく似た問題文が
いつまでも僕を楽しませる
メガネに飽きた黒い小さな虫たちが
心の表面に浮いている
のか
飛び交っているだけか
やけに慌ただしく汚れていく
僕が汚れていくのか
僕の周りが汚れていくのか
だれでも
どうでもよくなれる
僕の水面の話
ポケットから
拳銃を取り出しても射殺されない程度の平和
僕は満足げな顔をして未来を語れる彼らの手下さ
ひきがねを引いて
熱い蛍の光を見ていた
熱のないはずの綺麗な光を見ていた
目をつぶって見える白い流星
夕暮れを一人歩いても射殺されない程度の平和