「宿痾」(しゅくあ)
月乃助

白く焼かれる陽がある
入り江に巣くう朽力が、
いつも私の思睡を誘う
浜では確かに生き物たちがそれに抗い
夏を時限と耐えている、何故か
天は、夏色のターコイスに拓(ひら)かれ
今にも落ちてきそうな午後

岩の炎症に無数の火口を見せる小さな藤壺

脱皮した蟹の手を鎖に繋ぐ海鬼灯

引き潮の残されたぬめりの若布(わかめ)

潮を毒づき唾するあまたの浅蜊たち

まっすぐに正道を歩けぬ足を縮めた小蟹の群れ

身を潜めた私は、夏色の入り江の欠片(かけら)
そのすべてに入り込み
命の、息づく者達の潮に流される病の残滓を味わう、ために生きる

その入り江の水に私は子供と泳ぐ

(悲しく、懐かしく、優しく)

海水はきっと羊水の安堵の温かさ
私の想いは潮風が吸い、暗澹な影の目録(カルテ)さえも波に流れさる
乾いては崩れる砂の城を作りながら
子供が、見る私の乳房のふくらみに
小さな手を伸ばして、思い出したように
それに
触れた




自由詩 「宿痾」(しゅくあ) Copyright 月乃助 2009-06-25 14:20:51
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