「蜂鳥」(humming bird)
月乃助
肌を逆立てる岩は
海峡のこちらに隠れ
蒼暮雨(そうぼう)の丘は煙(けぶり)の中に
輪郭という硬さを失う
選ばれし紅(べに)の焼印に
私の濡れた唇は、許された水の細粒子をまとっては
なおさら紅沢(こうたく)を増して見せる
霧雨を罵り
秒を切り刻む羽音を湿らしながら
濃緑色に首を染めあげ
迷いの丘を
忙しく翔(かけ)る蜂鳥は、
途方に暮れながらも今日の蜜を求める
やっと探し当てれば
照光の紅い花弁のひろがりに、宙に頭(こうべ)をたれ
ひととき
救の磔刑(たっけい)を描く
刹那に私は、
許しを請う
悦楽を夢想し
眼を閉じ
きっと甘露のそれを味わうため
唇をわずかに開き
ためらい
差し込まれ
彼の細長い舌が、分け入るのを
待っていた