「蜂鳥」(humming bird)
月乃助

肌を逆立てる岩は
海峡のこちらに隠れ
蒼暮雨(そうぼう)の丘は煙(けぶり)の中に
輪郭という硬さを失う
選ばれし紅(べに)の焼印に
私の濡れた唇は、許された水の細粒子をまとっては
なおさら紅沢(こうたく)を増して見せる

霧雨を罵り
秒を切り刻む羽音を湿らしながら
濃緑色に首を染めあげ
迷いの丘を
忙しく翔(かけ)る蜂鳥は、
途方に暮れながらも今日の蜜を求める
やっと探し当てれば
照光の紅い花弁のひろがりに、宙に頭(こうべ)をたれ
ひととき
救の磔刑(たっけい)を描く

刹那に私は、
 許しを請う

悦楽を夢想し
眼を閉じ
きっと甘露のそれを味わうため

唇をわずかに開き
ためらい
差し込まれ
彼の細長い舌が、分け入るのを
待っていた


自由詩 「蜂鳥」(humming bird) Copyright 月乃助 2009-06-24 12:28:24
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