さとの祭り
丘野 こ鳩

わからないわけにはいかない
ひかりはトトロやオームでなく
ファミリーや私の身辺が
もたらすということをです

死にそうになれても
死にゃあしないので
わからないわけにはいかない

 まともな親戚が酒をつぐ
 まともな知人が人数分のグラスを卓にはこぶ
 まともな家族が手料理をかこむ
 まともな後継ぎと
 まともな婚約者が肩を並べ
 赤く染めた頬をゆるめる

 まともなおばあちゃんが
 男の子がいちばん気がもめるといった
 まともな親戚が
 長男が帰るのがいちばんうれしいといった

 私は承知しております、といった
 ここはもう無条件に物をくれたり罪をゆるしてくれる家ではありません
 むしろ老い始めた気力ある人々が
 我々のためになにを返してくれるのかと待っている
 場であるということを
 私は承知しております


肩車されたまだ幼い孫をはねとばして
隣のおじいさんをまともに引きころしたとき
まともな父は山車の進行役をしていた
伝統の馬鹿囃子を打ち鳴らし
自分が乗っている二本の丸太がおじいさんの背骨を飲み込むのを
父は見た

そんなこともあった
事情聴取され事故だったという話でまとまった
もう面倒な付き合いはしたくない
この歳になったら
畑の野菜に触ってるのが
みな静かに伸びるし
とてもすなおだから
すごく楽だ




まともな両親に
高齢の知人が
ビールの泡をつけたまま
大した話もなく
笑いかけている

 もんしろちょうが庭をはばたく
 セックスをたくさんしました
 鳥肌がでて、野原でいやらしい散歩をしました
 手をつないで歩いていました
 ああ、これが楽園で、至上の場所かな、浄土かな、とおもいました

 すべてがうまく流れ去り
 ステージは、クリアされました
 一連のできごと、人と物のからみあいが
 情緒の流れをもたらす
 TPOで良くも悪くもなる

 そしてそれだけです


あたらしい携帯をうれしそうに何度も開く兄が
きれいではないけれど愛敬のある婚約者のとなりで
今度の会社は給料が十万もあがるとほこらしげだった
兄はわけのわからないものごとに、付き合ったり、折り合いをつけたりしながら
まっとうに忍耐し努力し
自分をひきあげた

 まともな人間が、いいよ
 まともであることが
 一番たいせつだよ
 そのための書籍
 そのための食べ物
 そのための偉人たち
 そのための悪意
 そのための骨組み

あの変わった妹みたいになるなよといわれた
あんなのにならないでよと母がいった
妹は苦笑いを浮かべてご馳走を片付ける
 
 
  オームがもんしろちょうをまともにはねとばしたとき 
 金色の野に
 しにぞこないが降りたつ
 なんだかちまみれですね
 ええ 私のじゃないから
 死にゃあしないけど

私のじゃないから
まだなにもわからない
空の食器を卓に並べるファミリーの前に座して
今日が何の日か
みんなで何をしているのか
わからないわけには
いかないようす
でしたが


自由詩 さとの祭り Copyright 丘野 こ鳩 2009-06-23 23:52:46
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