書かれた-叔母
非在の虹

耳の後ろが赤く膨れ上がり
朝焼けのように
蕁麻疹が広がる
意味の分からない
恐怖をかんじる
湿地帯の高い草の中で
白い水鳥の環視の中で
叔母は叫び声をあげる
白い水鳥の環視の中で
湿地帯の高い草の中で
恐怖をかんじる
意味の分からない
蕁麻疹が広がる
朝焼けのように
耳の後ろが赤く膨れ上がり
 
  *

風上の叔母のうちの匂い。
だから町は
どこも叔母のうちの匂いがするのだ。
こどもは気に入った玩具を抱えたまま
密かにその匂いを味わった。
食器棚の匂い
血の匂い
花の匂い
どこにも咲かない花の匂いだ。

こどもは背後に立っている叔母に気づいた。
叔母の化粧台を覗いていたのだ。
三面鏡に映る無数のこどもの顔に
叔母の顔が無数に連なった。

公衆便所のタイルの溝の色がある。
帯止めの鼈甲の色がある。
あの 袖の中へ手先を隠す格好で
叔母は町中へ逃げて行った。

叔母は子供の相手に疲れると
こどもをデパートに連れて行った。
夕刻 叔母は消えた。
こどもが途方にくれる時刻までは
まだ時間はあった。

こどもは腹痛を起こした。
原因も分からず苦しみ続けた。
叔母はこどもを見下ろして
じっとりと汗を掻いていた。

叔母のうちに人が集まった。
子どもはその人々に見覚えがなかった
花札が始まり時折声が上がった。
叔母の声音の変化にこどもは気づいた。
叔母の後ろに周って
こどもは座布団になっていた。
気掛かりなのか
時折叔母は後ろに手を遣った。

叔母の呼ぶ声がした。
じっと子供は聞いている。
だんだん叫び声になって来た。
しかしこどもは動かなかった。
「叫んじゃいけない。囁け」
その声だけこどもには聞き覚えがなかった。

風上の叔母のうちにこどもは走った。
ようやく湿地帯が見えて来ると
その中に家々が点在し
その中に叔母のうちがあるのだ。
覚えのある匂いが漂って来た。
もう大丈夫だ。
華の匂い
仏華の匂いだ。

こどもはまだ眠っていた。
叔母はアサリを煮た。
見る間にアサリは口を開けた。
アサリの身が肉を際立たせ煮立っていた。
  
  *

叔母とは密かに叫ぶ貝である
貝とは平面と立体を流れる膿の行方だ
悪臭を放つ腐敗の時刻に向かい
ゆったりと胸元をはだける
踏み込めぬ浅瀬
無明の満潮が迫っている


自由詩 書かれた-叔母 Copyright 非在の虹 2009-06-23 20:36:02
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