緑夜
木立 悟
家と壁と人が消え
庭が庭につながり
あふれている
どこからでも見えるほどの
巨きな建物に
たどりつけない夢から覚め
床の上の静けさを見つめる
背中だけの礼をもらった
忘れてしまうのでしょう と
言われたようだった
浪と曇が同時に動き
何かを新たにはじめようとしている
音の影 そして
音の影
片方の胸の目が痛い
片方の目の上の目をつむり
手のひらと咽の目をひらく
雲間の草の星
陰にわずかな
花が見える
藻の光が廻りながら
朝と灰に近づいてゆく
舟に根づいた楽器が
声と潮に運ばれてゆく
庭と水辺をすぎるもの
足跡から足跡へ点滅を置き
衣と鱗を脱いでゆく