血液の流れる音を
瀬崎 虎彦
カミソリの刃の上に
そおっと指を滑らせて怪我をする
バランスが危ういと学んで
いつか大人になり髭を剃るようになる
洗面台の三面鏡の戸棚の奥の
戸棚の奥の薬の箱のワセリンの瓶
そもそもこの戸棚は好きじゃない
良い匂いでも悪い匂いでもない不気味な匂い
爪先立って夜を待つ蛍のように冷光が
帰る人の足音を待つ といえば隠喩
惑わされて僕らはバラバラになる双子
血液の流れる音を意識せずに耳の底に
聞き続ける君がいる その川底で
忘れてしまったクラスメートの名前
自由詩
血液の流れる音を
Copyright
瀬崎 虎彦
2009-06-22 00:30:43