ウサギの駅
月乃助


停車場の
傾く白熱球の下
如才無い白兎は、哀れむ赤い目に
お前を食いはしないと
処決の心意を翻せば
喜んで飛び跳ねる

私は、
蛙肉のような
兎のシチューにローズマリーの香りを思いながら
荷物も、切符もなく立ちすくむ

来るものか、どこへ向かうのか
それさえも知らずに
四劫(カルパ)を出でた所からの
柔らかな
列車を待っている

早く、と
嘱すれば
濁夜だからと哄笑がプラットフォームに湧き響く
平行のレールはいつか
楽(らく)の環となって
照覧の光を放つのに
それは、隙間に入り込む狡猾な電球の明かりの嫌がらせ

さぐれば
形に
握り返してくれる手はなく
白兎の柔らかな毛が足に触れる

やはり食ってしまうか
 
肉への欲を満たしてくれるはず

影だけは手を伸ばすのに、
私は
あんなにまばゆく
走り去った列車が
逆行し
捷径を
ウサギの駅にやって来るのを待っている


自由詩 ウサギの駅 Copyright 月乃助 2009-06-21 01:41:14
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