待つ
ねなぎ

店内には人もまばらで
通りが見渡せる
ガラス張りの
ファーストフードの二階
ハンバーガーを食べ終えて
コーヒーを飲みながら
文庫を読むふりをしながら
活字が目に入らない
彼女のことを考えている
かれこれ一時間
待っているわけだが
今日は旦那の所へ
帰ってしまったのだろうか
いや
それは無いはずだ
今日は金曜日
旦那には仕事で遅くなると
電話しているはず
それに電話がかかってこない
ならば大丈夫だろう

コーヒーを飲みながら
文庫をめくるふりをして
通りに彼女の姿を探す
仕事が長引いているのだろうか
あそこの会社は中堅だが
今はリストラはまだ無いはずだ
業務成績も優秀な彼女が
整理されるとは考えにくい
仕事も今は月末ではなく
納期にも余裕がある
ならば残業は無いだろう
まだか
と心の中で呟き
じれてきている頭の中を
整理している
目だけは人の波を追う
まさか、別な男が
いるのだろうか
それを考えて
ぞっとする
ならば今日は来ない
だいたい彼女が浮気などしない
女だったなら
僕はここにいない
それを考えていなかった
いや考えないように
していたのだろう
自分のために
人間は無意識に楽な方へと考える

店内も通りも
人が混んできた
この店のコーヒーは不味い
金があったなら
もっといい店に入りたい
金ばかりかかる
だいたい金があったら

こっそりと携帯の彼女の写真を見る
そしてまた
彼女のことを考える
彼女の顔、輪郭、鼻
写真を見なくても
想像できる
彼女の声も骨格も
覚えている
今日は何を着てくるだろう
髪型は変えてるだろうか
文庫をめくる
時計を見る
時間ばかりが気になる
遅い
何をしているのだろう
まったく
時間にルーズな女だ
もう今日は
帰ってしまおうか
後で言い訳すれば
何とかなるんじゃないか
結局待ちぼうけなら
帰ったって一緒だろう
そう考えていると
人ごみに
彼女の姿を見つけた
心の中で喜ぶ
来た
まったく遅いじゃないか
待ちくたびれた
表面は
冷静に
店内でにやにやしていては
あぶない奴と思われてしまう
反射的に
席を立つ
カップを捨てて文庫を鞄に手早く入れると
携帯の短縮に入れてある
番号をかける

「マルタイは南口方面に移動このままツけます」
「了解」

面取りには成功
表情を戻し視線をぼかす
目の端で彼女の後姿を捉える
考えを消す
仕事が始まる


自由詩 待つ Copyright ねなぎ 2003-09-27 02:53:58
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