「そして静かに暮れてゆく」
ベンジャミン

かげろうみたいに揺れていた
道端に咲く花の名前を知らなかった

うつむきながら歩くのは
暑いからではなくて
探しものをしているから

交差点で泣いている少女を見かけた
優しい言葉をかけてあげられなかった

うつむきながら歩いても
探しものが見つからないことは
なんとなくわかっていた

優しい言葉なんて知らないってことも
ありふれたものの本当の名前を知らないってことも
それをただ認めたくないだけだったことも

静かに暮れてゆく
いつも通りの世界に波風をたてないように
こころをしまいこんでいた

そんな僕を
かげろうみたいに揺れる花が
まるで幻のように見つめていることにも

うつむいたまま
僕は気づかないふりをして

今日が暮れてゆくのを
ただ淋しいと思うことしかできなかった


自由詩 「そして静かに暮れてゆく」 Copyright ベンジャミン 2009-06-18 00:09:39
notebook Home