北陸のある地方では
おたまじゃくしや小魚が空から降ってきたらしい
不思議なこともあるものだ
ありがたいと言いながら年寄りが
空に向かって手を合わせている
そんな姿をテレビでみた
そのひとの宇宙は
きっと水に満たされている

いま地上では
田んぼもため池も水を満々とたたえている
風も空気もたっぷり水を運んでいる
草花も木々の葉も
勢いよく手を伸ばしているみたいだ
ひとも背伸びすれば
すぐに魚になれそうだ
生き物のすべてが
水の記憶を取り戻そうとする
梅雨は回帰する季節なのだろうか

夜
ぼくは水の道をたどって
空の水際まで美しい恋人に会いにゆく
期待と不安で呼吸がくるしい
毛穴はすべて水でふさがり
いつのまにかエラ呼吸をしている
水に狂った
無数のおたまじゃくしや小魚たちも
恋しい星に会いにゆく

宇宙が水に満たされるとき
空の水たまりで
夢を見ていた小さな生き物たちが
寝ぼけて雲のベッドから転げ落ちる
そんな夜も
あったかもしれない