面接(8)
虹村 凌

「出てくんなよ」
「お前が望んだんだろうが」
「うるせぇよ」
「子供みたいな言い方するなよ」
「うるせぇってんだろ」
「まぁいい。それで、どうするんだよ?」
「何が?」
「わかってる癖に」
「だから、何をだよ」
「言わなきゃわからないか?」
「わかんねぇよ」
「本当に?」
「…」
「わかってんだったら、もう一度聞く。どうするんだ?」
「…わかんねぇよ」
「直接言われなきゃわかんねぇのか?」
「違う。どうしたらいいのか、わかんねぇよ」
「あの女に言えるのか?」
「今は、言えない」
「今は、ってお前、じゃあ何時言うんだよ」
「わかんねぇ」
「わからねぇわからねぇじゃ、何も解決しないぜ?」
「んな事ぁわかってるよ」
「じゃあ、どうするんだよ」
「今すぐにはわかんねぇよ…」
「フン。言う時期が遅ければ遅い程…」
「相手を傷つけるのはわかってんだよ。だからって昨日の今日で言える事じゃねぇだろ!」
「でも、ずっと隠し通す気でいる訳じゃないだろ?」
「そりゃそうだけど…」
「まさか、そんな気は無いよな?」
「…無ぇよ」
「今日だって、お前はあの女にキスされた瞬間に、違和感があった筈だ。何か違う、ってな」
「…」
「お前は今後、ずっと違和感を感じていくんだぜ?どんなに女が変わろうとな」
「…」
「それを隠し通す気でいる訳、無いよな?」
「…」
「匂いも、温度も、肌触りも、感触も、全部違うんだぜ?」
「…」
「お前はそれを隠し通す気でいる訳じゃないよな?」
「…」
「折角、受け入れてくれるような奇特な女が出てきたんだ。早めに言えよ」
「…」
「あんな女、そうそう居ないぜ?」
「それは…わかってる…」
「まぁ、お前はあの女じゃなくてもいいんだろうけどな」
「あ?」
「お前を許してくれる女なら、受け入れてくれる女なら、誰だっていいんだろう?」
「それは…」
「普段は色々と言う癖に、いざ淋しいとなったら、誰でもよくなったんだろう?」
「違…」
「違うなんて言うなよ?」
「…」
「言わせねぇよ。俺はお前なんだぜ?わかってねぇとでも思ったか?」
「それでも、好きになっていってるんだ」
「よくもまぁ、そんな恥ずかしい事が言えたもんだな!我ながら情けないぜ。ちょっと優しくされたから、心が動いただけだろう?」
「最初はそうだったかも知れない」
「まだそんな事言うのか?切欠だったって言いたいのか?」
「何が悪いんだよ」
「ギャッハッハ!今度は開き直りやがった!こいつぁ最高だ!」
「うるせぇ!うるせぇよ!消えろ!」
「バカが。俺はお前だ。お前が死ぬまで消えやしねぇよ」
「二度と現れんじゃねぇ!」
「フン。呼び出すのはお前の癖に」
「とっとと失せろ!」
「じゃーな」
 俺が湯船から顔を出すと、
「ばぁ〜か」
とだけ言って、ニヤけたツラの俺が、湯船の中に消えていった。
 そいつが何時から俺の近くにいるのかわからない。ずっと前から居た気がするけど、つい最近になって出てきたような気もする。勿論、そいつは俺にしか見えない。だけど、俺はそいつ(奴は俺だと言うが)と会話している。独り言なのか、それとも脳内だけで会話しているのかわからない。そいつは、俺が一人の時にしか姿を現さない。俺が狂っているのか?俺の妄想なのか?運動場の隅っこで育てた悪魔の様に、常に俺を見て嘲笑っているそいつを、俺はどうする事も出来ずに居る。孤独と苦痛と不安と後悔と憎しみを、思う存分喰い散らかして育ったそいつは、延々と恐怖を排出し続けている。


散文(批評随筆小説等) 面接(8) Copyright 虹村 凌 2009-06-14 01:11:04
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