faraway
ねことら


ちいさな腫瘍があった
おそらく、せかいというものから隔てられた朝
ぎこちなく、触れることで
ぼくらが確認していたのは
痛みだったのだろうか




この詩は、きみの
平熱の、平坦な視座に
映りこむ世界のすべてのきらめきのために




どこかの部分が造られた朝を生きる
それは、味のない呼吸からはじまるだろう
等角に切り分けられた青空が
ひとつずつ配給される
無造作に目もあわさないで受け取るだけだ

淡いグリーンのクラッシュゼリーの海
往復を泳ぎきることは難しいので
たーん、とピストルの音がコダマすれば
ぼくらは息継ぎなしで夜の落ちる方へ泳ぎだす
(いつしか、透明な喧噪が満ちていく

すでに、ぼくらの足もとの喫水線は
しずかに侵されはじめている



マクドナルドに入り、マクドナルドで食事をする
一つの詩を作りだすように事務的な作法で
体の中に異物をつめこんで
自分の体じゃないような感じにしたいことってあるだろう、
ぼくらは会話もなしに
何かに罰せられながら
きっと違うことを考えている
(詩と死はどこか似ている





肌に浮かべた淡い鱗をぽろぽろと剥がして
新しい傷口の赤にみとれながら
携帯の電波なんて届かないところで
叫んだり歌ったりしたいだけだよね、
ぼくらは会話もなしに、
きっと違うことを考えている




それなりに一日をやり過ごして
気がつけば、夜の淵をのぞきこんでいた
深夜の1K
いつだって、明日への助走なんてはじめられない
空腹だから、といって君は数錠の眠剤をかじり
ぼくはといえば、深夜テレビの大音量の
異国語のような洪水の中で、
どこかにひかりのようなものの気配を
さがしていたりする


ちっぽけな平穏など爆音を立てて崩れ去ってほしいとおもう、
朦々と上がる白煙の中で
ぼくらはセロファン越しの青空を夢想する



ファラウェイ
きみと、光の届かないとても深いところで
さっきみたいに交りあおうか
水槽の中で魚たちがみる
さびしい夢のつづきみたいに、




ファラウェイ
青く光る夜にしずみこんでいく




まもなく、せかいは
きらめきに姿を変える
準備を始めようとしている









自由詩 faraway Copyright ねことら 2009-06-13 13:27:13
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