青い空に飛ぶ窓辺の鳩を
ホロウ・シカエルボク





青い空に飛ぶ鳩を
焦れながら僕は待っていた
いかんせんあいつは気まぐれで
めったに首をこちらに向けることはない
ひたすら窓辺で待っていたところで
いついつに顔を出すなんて約束をするわけじゃない
初めのうちはずっと
快適なソファーを構えて待っていたけれど
そのうちに
待っていればいるほどやつは来ないのではあるまいかという気になって
僕は窓辺のソファーを外す
窓辺のソファーを外して
狭いキッチンの椅子に腰をおろし
珈琲を飲みながら
ときどき窓辺を見やるようにした
マグカップに
カップ麺に
茶漬けに
口をつけているとき
目の端に、ふと
白い羽がよぎることがある
来たのか、と顔を向けると、そこには何もいやしない
しかし少なくとも、窓辺に何かがいたのだ
僕は食器を片づけ、窓辺を一切見ないことにするのはどうだろうと
そもそも俺はなぜにこんなところで鳩など待っているのだろうと
洗面で冴えない顔を眺めつつ考えたりするのだが
そんなことはもう飽きるほど考えたあとなので歯を磨く
歯を磨くのは結構技巧的なことだと気がついたころから
虫歯になることが極端に少なくなって…最後にニッと歯をむいた時の白さは少なくとも確かなひとつの結果だから
僕は神経質になり過ぎないように気をつけつつ丁寧に歯を磨くのだ
その時も目の端に白い羽がよぎる気がする
白い歯に白い羽、並べてみるとフランスの詩歌のようだ
洗面を離れながら見るともなく窓辺を見ると
それは確かに鳩だった気もするが
白い歯の達成感に比べればそんなことはどうでもいいような気もする
一日の予定が全くなく
たまには出かけてみるのもいいだろうかなんて考えたりもする、そのほうが鳩もさぞかしよく見えるだろう
だけど
この窓辺で見なければ意味がないような気がして
きっと今日も僕はこだわってしまうのだ
この窓辺で見なければ意味がないような気がして
居間で本でも読もうか、そうしながら待とうか
キッチンで何杯か珈琲を飲もうか、そうしながら待とうか
そうしながらも鳩のやつはどこかを飛んでいるのだ
見えない羽はよく羽ばたくものだ
眠ることだけはしちゃいけない
目を開く時間に閉じていたりなんかしたら
あいつらは
きっと調子に乗る






自由詩 青い空に飛ぶ窓辺の鳩を Copyright ホロウ・シカエルボク 2009-06-13 09:11:46
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