雨とマスカラ
うめバア


ロング・ディスタンス・コールだから
お金がかかるよねと
姉は一人、つぶやいて
マスカラを重ね塗りする

だけど長い、長い、電話線の先に
つながるものは、もうないのだと
本当は確信してしまっている

振られたんでしょと冷たく言ってやったって
聞こえないみたいな顔して
何度もアイラインを引き直すから
こちらも外の、雨を見ている

降るね
 降るね
 ずっと降ってりゃいいんだよ

子どもの泣き声がうるさいから
苛立ってつい振り向くと
こんな野暮ったい世界全体を
まるごと見据える
黒い瞳にでくわして
なんだか、恥ずかしくなって
笑ってしまう

どうでもいいよ
どうだって

だけど
やまねぇ雨は、ねぇんだよ

戯れ言を
聞いているのか、いないのか
姉は眉を引き終えて立ち上がり
でかける、という

安&古マンションの4階に
したたる雨は
歌ってるみたい

遠くの空がほんのりと
明るくなってきた
雨はもうじき
やみそうだ



自由詩 雨とマスカラ Copyright うめバア 2009-06-12 20:21:31
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