火の粒
相馬四弦

あの子が火の粒となって

どれだけの時代が過ぎただろう

三軒長屋の裏庭で

たわむれに散った線香花火の

ちいさな火照りから生まれて

むくんだ素足で まっくろな顔で

ふらふらと

川辺で石を集める子供達の鼻先を

ひっそりと横たわる商店街の陰の中を

寝癖を気にしながらバス停に並ぶ学生のうしろを

真冬の夜に窓からこぼれる団欒の外を

鉄工所の軒下で膝を抱える青年のうつろな瞳の前を

いよいよ賑やかな森の巣箱の営みを

ふらふらと

灼けあとを探して



火の粒は朝やけが苦手

さまよい疲れて

国道沿いの植え込みの中に寝床をみつけると

遠くへ飛ぶことなんて叶わないからとつぶやいて

せめて煤となる夢をみる





自由詩 火の粒 Copyright 相馬四弦 2009-06-12 12:02:00
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