犬
鈴木まみどり
男の腰に食らいついていたとき
わたしは自分がひとさじの情けを持ち合わせているのだと思い知り ました
穴
に成り下がるのではない
私が私であるだなんて
脳と性器とをひとすじの光で繋げるようなものだ
ただ名づけられた
というだけで
*
感性は
その後ろ盾の希薄な自身に時折寒さを覚える
そんなとき
論理が傍にいてくれて本当によかったと涙したりする
(、そこには人間なんて登場しない の、しかし、とても関わりは深く)
感性の涙は
やがて夕焼けの色
、などになる訳だが
どうして夕暮れどき
空がいっしゅん薄紅色に染まるのか
それでもうすべて納得がいくだろう
/とは到底思えず
(、もちろん、論理のことである)
空へ帰すまえに砕いてしまったのだそれが昨日の雨だった
理論は
どうしたって美しさばかりを気にしている
そして常に挑発的なのだ
だから無視をすることができない
世界の情熱は大概
理論の仕業だったりするので
、論理
はどんなときも二位である
甘んじて…
神はとうに死に絶え
と先導したのは理論だった
このコンロの火が緑に光るのも
魔法
などではなく、/ない!
「科学はこのたび国教になりました
蜘蛛の巣のような聖書もあります」
*
わたしは感性に飼い慣らされている
孤独の輪郭をなぞっているようなものだ
男はしきりに
わたしの下半身に赤紫の花が咲いていると言うが
たぶんそう、
/そういうことだろう
(光などなくても
*
言葉は
本質的には嘘つきで
ただ
忠実であろうとする
、その心意気だけは買われている
価値と価値観とが双子であるとして
どちらが重く用いられるだろう
そして疲弊していくのか
言葉は価値観のことを
自分がいなければその存在さえ危ういと下に見ていた、が
あるとき
その価値観によって凌辱されたのだった
穴
はふたつあり
ひとつは筒で
ひとつは袋小路だった
価値観は迷わず筒のほうに入れた
精液が流れ星のように
言葉の中心を駆け抜けるのを見ていた
生まれた子は
丸型に入れれば 丸に
もみの木型に入れれば もみの木になるような子どもだった
価値は
違う次元へ行くことばかり考えていて
(五次元空間やら六次元空間やらで遊んでいる星、のこと ばかり、)
価値観の暴挙を聞いても
顔色を変えない
のだった
その気持ちに名前をつけるのを
逡巡していた
*
切断できない
だから関節を茹でちゃう
そうすれば包丁がすっと入る
その包丁が
わたしの言葉だった
だって判別できる?
あの子が乗っている自転車の色…
手をついて足四本
それはあなたに忠誠を誓うことに等しく
それでいて
あなたの命を握っている
/も同然
わたしが考えるのを止めたら
あなた
はどうするのでしょう
*
彼らは人間のなかに
再会を求めている