人と出会うまでの距離
さち


四十をとうに過ぎてから
韓国語を習い始めた

英語を学んでみても挫折した私が
日本語と少し似ているせいで
韓国語ならできそうな気がしたから

教えてくださる先生は
日本の男性と結婚して
もう十二年 日本に住んでいる
明るく気さくな女性で
先生と会うこと自体楽しみになった
そうやって
私と韓国の間は少し縮まった

せっかく習っているのだから、と
韓国にも行ってみた
習いたてのカタコトで
ソウルの街を歩いた
韓国語が全く分からない夫と二人
地図を片手に立ち止まれば
すれ違う人が次々に
どこに行きたいのか聞いてくれた
そうやって
夫と韓国の間もまた縮まった

先月から
先生のお母様が三カ月の予定で
日本に遊びにいらしている
「お母さん」は「オモニ」という
先生とオモニと私たち夫婦で
食事に行った
韓国旅行以後 いくつかの単語を覚えた夫は
ほとんど分からないながら
オモニとも仲良くなった
言葉は通じなくても
親しくなれそうな人かどうか
理解ではなく感じる
そうやって
私たちと韓国の間はまた縮まった

仕事で忙しい先生の代わりに
オモニと東京見物に行った
食事をして
浅草寺でおみくじを引いて
仲見世を歩いて
水上バスにも乗った
とても長い時間
時には辞書をひきながら
オモニといろんな話をした
私の不十分な韓国語でも
会話はとても楽しかったし
不器用ながらも通じていった
おなじ主婦の先輩として
料理のことなど話すうちに
「一度教えてあげる」と言われ
我が家で教わりながら作ってくれる約束をした
そうやって
私とオモニの間はさらに縮まった

韓国語の授業のある日
授業のあとでオモニを我が家にお連れした
途中スーパーで材料を買っていく
狭い台所で
手際よく動くオモニの手元を見つめながら
またたくさんの話をした
「オモニはいつ結婚なさいました?」
「一九歳の時。」
そういいながら顔をあげフフッと笑って私を見た
一九歳の時、十歳年上の軍人さんと結婚して
優しい人だったこと
六年前に旦那さんは亡くなって
今は軍人墓地に眠っていること
そして
お墓参りに行くたびに今でも涙が出ること
コチュジャンの香りがする台所で
数日前までまったく知らなかった
オモニという異国の人の今までの人生を聞いて
不思議な感動に包まれた
そうやって 私に
オモニはとても近づいてくれた

オモニが作ってくれた料理を
仕事から帰った夫が美味しそうに食べて
「本物の韓国家庭料理だ」と喜んだ
夫にとっても
オモニはまた近くなった


オモニが日本にいる間に
また何回も会いたいと思う
そして国に帰られたら
きっと手紙を書こうと思う

オモニ サランへョ


自由詩 人と出会うまでの距離 Copyright さち 2009-06-08 01:24:07
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