水の箱庭
水島芳野

たとえばこの町が水に沈んでしまったら

君への祈りも
僕らの言葉も
何もかもすべて、冬になれば凍って
そのまま永遠に
美しい水平線を保てるのかなと

冷たい手のままで笑んだ

風は水面を揺らすことなく
氷の花弁は朽ちることがない
音の響かない深い深い海の底で
いつまでも君の幸せを希おう

 頷くにはあまりにもくだらない幻想
 笑い飛ばすには優しすぎる戯言

薄くぼやけた仄かな理想郷

瓶詰めの世界の切れ端を
誰かが焼き払おうとしても
いつまでも君の手を払えない

ああねえ

どうして。

異常なほどに美しいかなしみの中
僕たちは幸せを象るように生きながらえて
月に向かって手を伸ばすんだろう

覚えていてくれなんて願わない
すべてを忘れてくれていい

そう言った君の瞳の澄みきった藍が
こんなにも憎いと。

口ずさむことできっと君を傷つけた

たとえいつしか水に沈むこの焼け野原の中でも
地平線の向こうでは太陽が待っていて
夜明けの果てに目を眩ませ
ただ微笑むしかない僕らがいる。


自由詩 水の箱庭 Copyright 水島芳野 2009-06-07 16:37:07
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