バラの花びら
キエルセ・牧

そうこうしているうちに
定期券などというものも
すっかり使わなくなったと彼は言い
ひとさし指を使って首をかいた
それで生活はだいじょうぶなのかと私がきくと
どうもこうも
生活などというものではない
お腹が空いたことを考えないために
よく公園で絵を描いている
とにかく人からどう見られているかが気になって
それでよく顔を洗っている
そのようなことに
大体もっと早く気付くのが大人であって
親や先生が教えてくれるのは
なんだか関係ないことばかりだったと言う
ああ俺はもうだめかもしれない
そう言って彼は私にバラの花びらをくれた
いい匂いのする おみやげだという
そうかと思って私は彼にタバコをすすめ
近くにハローワークがあるけれど
住所はあるかと聞いたのだ
二人の間の沈黙はタバコとバラの匂いがしている


09.6.6


自由詩 バラの花びら Copyright キエルセ・牧 2009-06-06 02:37:38
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