マーメイド
蒸発王
私は昔人魚だったのよ
と
全てが終わった後に彼女は言った
確かに
彼女の両足は
かかとから
太ももの後ろにかけて
大きく長い切り傷がある
王子様を捜しに2本の足を作って貰ったのよ
と
ひらひらとつま先を翻すと
なるほど
爪に塗られた真っ青なペディキュアが
本来の尾ひれの名残を思わせた
その割に君はおしゃべりだな
声は失ったんじゃなかったのか
と問うと
あのおとぎ話は嘘っぱちなのよ
あの人魚姫は本当は声が出たの
愛してるってちゃんと言えたのよ
彼女は歌うように呟いた
でも
捨てられてしまった
彼女には声を失うよりもっと大きな壁があった
足を作ってもらうだけじゃ
超えられない壁が
そこで彼女は初めて笑顔を消して
子供が産めなかったの
と告げ
そして深淵の海のような瞳をして
ごめんね
と僕を見つめた
瞬間
僕はおとぎ話のように
本当に彼女が泡になってしまうような気がして
彼女の王子になるべく
シーツの海の中で彼女を抱きしめた