マーメイド
蒸発王

私は昔人魚だったのよ

全てが終わった後に彼女は言った

確かに
彼女の両足は
かかとから
太ももの後ろにかけて
大きく長い切り傷がある

王子様を捜しに2本の足を作って貰ったのよ

ひらひらとつま先を翻すと
なるほど
爪に塗られた真っ青なペディキュアが
本来の尾ひれの名残を思わせた

その割に君はおしゃべりだな
声は失ったんじゃなかったのか

 と問うと

あのおとぎ話は嘘っぱちなのよ
あの人魚姫は本当は声が出たの

愛してるってちゃんと言えたのよ

 彼女は歌うように呟いた

でも
捨てられてしまった
彼女には声を失うよりもっと大きな壁があった
足を作ってもらうだけじゃ
超えられない壁が


そこで彼女は初めて笑顔を消して





子供が産めなかったの



と告げ



そして深淵の海のような瞳をして

ごめんね

と僕を見つめた


瞬間



僕はおとぎ話のように
本当に彼女が泡になってしまうような気がして
彼女の王子になるべく
シーツの海の中で彼女を抱きしめた







自由詩 マーメイド Copyright 蒸発王 2009-06-06 00:48:06
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