7.廃墟の住人
朽木 裕
あかい爪から夕焼けにじむ
嗚呼、もう満ちてしまうから
呼吸をひとつ
決して後ろをみないこと
怖いと思えば取り込まれる
気を強く持つこと
廃墟には人ならぬものが住む
見えないからいないのではない
彼らは確かに存在している
いいものもいれば悪いのもある
気丈に振舞うこと
建物には敬いを忘れないこと
写真を撮る前と後には一礼すること
後悔するならしないこと。
…それだけ分かっていながら私は偶に禁忌を犯す。
「いれもの」をどんなに愛でても「なかみ」がどうしようもなく
悪くて腐った奴ならばどうしようもない。
どれだけ気丈に振舞っても敬い筋を通しても
ダメなときはダメだ、とりつかれる。
それでも廃墟に惹かれてしまう、どうしようもなく。
其処には命が溢れている。
私の求める生と死がある。
命の生き死にの唄が聞こえる。
それをどうしても聞きたい。
この目で見たい。
写真という詩で残したい。
世間から見れば勿論犯罪行為で
つかまったら社会不適合者で
親は泣いて
でも見たい
生が死を凌駕して死が生を産む、
その様を心行くまで感じていたい。
危ない場所だって分かってる
危険な行為だって分かってる
そんな場所で襲われでもしたら命も危ない
まして自分は非力な女だ
無鉄砲に突き進む私を側にいる男は蔑む
それが一番の欠点だと
おそらくそうなのだろう。
でもやめられないのは何故だろう
父が昔言った言葉が忘れられない
写真を撮るものが廃墟の魅力を知ったら戻ってこれない、と。
それもおそらくそうなのだろう。
廃墟には人ならぬものが住む
彼らは確かに其処に存在している。
目が合ったなら最後、
取り込まれたなら最後、
とりつかれたなら最後、
もう二度と、愛する者にさえあうことも叶わないかも知れない。
そう知って尚、私は。
私は。
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