明らかに代謝の域を超えているのだが君はどう思うのか
aidanico
夏が始まる。普通の出だしだと、落語で言う枕と呼ばれるところだと、夏が終わる、なんてぇひとさまはよく話を切り出すもんですが、みたいな感じで始まるんだろうけど、残念ながら始まるのは話、そして夏、さらには上がりあがって見境なくついには沸点までいってしまう気温の上昇である。つまり、夏はまだ、現時点においては始まっていない、まだ。それをゆるしているのは、僕の体の若さと、幾つかの忘れたい未来と、それから、なくなりかけた煙草ひとケースの為だ。夏っていう季節はやけにむしむしと暑くって不快指数は高いわ、その不快指数から逃れるために駆け込んだ輩を当てにした気の狂うようなセールの嵐でこき使われるわ、おまけに一時間の残業代は出ないわで、もう踏んだり蹴ったりと言うか、見返りゼロ寧ろロス出ちゃってますけどみたいな、そういう季節であるわけで、暑さばかりでなく疲労と気遣いとノルマに押し潰されちゃう、そういう時期が確実にせかせかと足音を声高に鳴らして近づいているのだ。いいやそれが今まさに来ますよ来ちゃいますよというのを決して申し訳ございませんがここはお引取り願えますかと、そこまで差し迫った悲愴な顔をして憂いているわけではないのだけれど。疑問符で返せるようなメールを送ったつもりが、一時間しても返事がないところをどうにも我慢が出来ずに気が付くとコンビニにもうひと箱煙草を買いに走っていたり、あわよくば三杯目のウイスキーオンザロックミーツコークアンドオレンジになんとなく不毛な挑戦をしていたりと、一刻一刻と状況は切羽詰る程というわけでもないが、確かに進行していっているのである。例えばある人がお給料に見合う仕事をしなさいよと嗜めて言えば、あるひとは多くは言わないからこれさえしてくれりゃア文句のひとつも言わないよという。どちらも真から突き放す一言ではないのだけれど、本人にはどうにも腑に落ちないところがあるようで落ち着かない。すると傍からじりじりと夏が迫ってくる。今度はその声を荒げて、或いは擦れて頼りないものになっていても、それはやって来てしまうのだ。世相を反映した不安であったり、恋の行く末の淡い期待であったりと、何かしらの波風の気配を少しばかり残して。