六月の水球
佐野権太

白熊が死んじゃう、と言って
つけっぱなしの電気を
消してまわる君は
将来、かがくしゃになりたい
という

撒き散らかされた
鳥の餌のシードを片づけていると
芽がでればいいのに、なんて
幼く笑う
小さな額をみつめる

逃げ切れないかもしれない
君の世代
そうしている間にも
星は
少しずつ動いている

*

プロペラと
流体力学と
少しの風力
鳥に憧れるならば
そのくらいでよかった

月の海には
やさしい動物が
住んでいればよかった

*

毎朝
ふたご座を占うことを忘れない
君の
誰にも聞けない秘密の質問に
お父さんは、もう
うまく答えられそうにない

繰り上がりの計算は
教えられても
かなしみと
折り合いをつけるやり方は
自分で見つけるしかないのだ

*

手渡してゆく、季節
六月の
細い雨がささる

それでも
君の傘の先は
まるくなっているから
少し
安心するんだ

ひだりの瞳に
緑を潤ませて
名を呼べば、きっと
両手を振り返す、君を
みぎの瞳で願っている






自由詩 六月の水球 Copyright 佐野権太 2009-06-01 12:11:55
notebook Home 戻る
この文書は以下の文書グループに登録されています。
家族の肖像