金魚
北野つづみ

どうして夏は暑いのだろう
南半球の八月を思い
冷たく白い夏を想像してみるけれど
ひんやりともしない
フローリングに横たわっていると
少しは涼しいから
寝転がって
窓越しに雲が
左へ左へと流れていくのをみている

地球上の水は循環しているんだそうだ
二十億年前から変わらずに
雲になり雨になって
地上へ降り注ぐ
土に染みこみ集まって
川となって海へと向かう
そうして水蒸気は空へ還る
どこへも逃げていかない水
いつまでも留まっている水
出口がないのは
バケツの中の金魚のように
なんだか息苦しい

バケツ

なぜバケツかというと
夜店ですくった金魚だからだ
金魚鉢は確か次の日買った気がする
三匹いたうちの二匹は
青いプラスチックバケツのなか
翌朝には死んでしまって
それでも残った一匹は
丈夫なタチだったらしく
ずいぶん大きくなって
小さくて可愛らしい金魚が本当は
大食いの
のっそりした
鮒の仲間なんだと教えてくれた

金魚の体のなかにも
水が含まれていただろう
(人体に含まれる水分は
全体の何パーセントだったろう?)
あの金魚どこへいった
記憶にない
いま、いないということはたぶん
死んだんだ
それでは死骸を
わたしはどうしたろう?

祖母が死んだ時は火葬した
初めて
人間の骨というものを見た
箸で持ち上げると崩れてしまう
白く乾いたもろい骨
焼かれてしまった肉体の
細胞の中の水は
焼き場の灰色の煙突を通って
やはり空へ還ったのか

青空をぼんやり眺めている
あ、あの雲
金魚の形をしている


自由詩 金魚 Copyright 北野つづみ 2009-06-01 08:31:40
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