創書日和【朝】Bitter Sweet Morning
大村 浩一

少年のような朝ばかり
描かなくたって良いだろう
逃走の夢から不意に放り出され
いい気味と薄笑いを浮かべる
覚めている筈の脚がもつれる
5月の太陽はとうに高くて暑い


南方のビジネスホテル
昨夜は降り始めた雨のなかを        ※
誰かが遠くへと出て行ったかもしれないが
構わず布団を抱きしめて眠った
ここも丸窓並ぶノスタルジックな繋船ホテルではないので
夜を疾駆したり
電線を唸らせたりはしない


午前7時
あっけらかんと繋がれたまま空は明け
ニュースの順番まで決まっている
誰も情欲を突き刺したりはしない
僕も諦めていて頓着しない
こころがあったらあったで
引き裂かれたままさらにさらさら乾き
女はまったく別人の顔で
ショーウィンドウの向こう側を明るく歩いている


けれど残りの年月を数えるようになっても
朝は朝だ
まだ冷たい剃刀を当てて備えている
あの雨のなかを出ていった一人が
この街を目指している
交錯を確信する
肯定も否定もその時明かそう
無責任に選択肢を並べたてたりはしない
徒には吠えない 決して
一日を失うことで得られる一日の
始まりだ


 ※ 鮎川信夫「繋船ホテルの朝の歌」から部分引用があります

2009/5/26
大村浩一


自由詩 創書日和【朝】Bitter Sweet Morning Copyright 大村 浩一 2009-05-31 23:25:30
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