たんぽぽ咲きみだれる野っぱらで、俺たちは
角田寿星


とおくの丘で
風力発電の風車がゆっくり回っている
見ろよ あれが相対性理論てやつだ
他人事であればあるほど
てめえだけは平穏無事でいられる
俺は腹がへって
あんちゃんのつぶやきをろくに聴かずに
肉眼で空を凝視しながら
あいまいな合槌をなんべんも打った
たんぽぽが咲きみだれる野っぱらで
飛び交う綿毛にむせっ返りながら
俺たちは
たたかってるところだった

成層圏のむこうに
きらりと光る何かが見えたら
そいつが敵だ
事の真偽を確かめずに
俺とあんちゃんがぶっ放す
これしきのランチャーじゃあ
ちいさなデブリがあたった程度だろう
まっすぐな煙はどこまでもあおい空に吸いこまれ
ちりちりと空気の焦げるにおい
時間をかけてレーションをあたためた
この なけなしの軍用携帯食が
俺たちの一日分の命の代価だ
安いなあ ひとの命は
あんちゃんが鼻唄まじりにレーションをあける
ああ ああ 安くて旨い
まだ値段をつけて貰えるからな
いい身分だよ 俺たち

やつらの言う
「誤爆」ってやつを目撃したことがある
ちょうど人間の形に蒸発した影が
壁に貼りついてた
なにかをつかもうとするような
指の痕跡まではっきり見えた
やつらが本気出しゃあ このざまだ
このたたかいは
負け なんて生やさしいもんじゃない
首根っこをつかまれて悪あがきで
手足をじたばたしてるようなもんだ
よそうぜ そのはなしは
メシがまずくなる

宇宙に もいっぺん行けたならな
あんなやつらこてんぱんにしてやるのに
俺は眠くなって
あんちゃんの遠い眼をかえりみもせず
大きなあくびをしながら
いいかげんな合槌をなんべんも打った
俺の頬を つう とひとすじ涙がつたう
あくびのしすぎだった

ここはあたたかすぎるんだ。

成層圏のむこう
きらりと光る何かが見えて
俺たちは何も考えずに
照準をオートにしたまま
ランチャーをぶっ放す
あおい空にどこまでも吸いこまれる軌跡
消えていく爆音
と 空の色が変わり
真昼の星が輝くように俺たちの阿呆づらを照らす
命中か?
命中だ…逃げろ!
咄嗟に熱反射シートをかぶり
ランチャーを放り投げる間もなく
あんちゃんの右脚と
俺の右腕が視えない衝撃に撃ち抜かれた
ちょうど俺たちの脚と腕の形に
地面は蒸発し
大量の黄色い花弁と
白い綿毛の乱舞が
これでもかと俺たちの上に
降り注いだ

ちきしょう
明日っから仕事ができねえぞ
俺は痛み止めを打ち
歯と残った腕で ついさっきまで
俺の右腕だったものをきつく縛りながら
あんちゃんの絶叫に
どうでもいい相槌をなんべんも繰り返した

たんぽぽの咲きみだれる
野っぱらの ど真ん中で。


自由詩 たんぽぽ咲きみだれる野っぱらで、俺たちは Copyright 角田寿星 2009-05-31 14:21:31
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