夏休み
遊佐



夏がほどけて…

 *
魂迄もが吸い込まれそうな程
深く澄んだ青空の背景に7月が漂う午後に、溜め息一つ
ふうっと飛ばせば、眦(まなじり)を掠めて悪戯小僧の麦藁帽子が天高く舞い上がり
通りすがりの風が爽やかに笑いながら

夏が訪れた、と
囁いた

 *
乾いた薄い膜に覆われた蜃気楼のドームに映える色鮮やかな黄色が眩しくて
被り直した麦藁帽子のひさしの向こうに
千切れた雲の形した宿題が、
ひょっこりと顔を覗かせる
古い記憶の縁取りは今も胸を焦がしたままに遥かな旅の扉を開く

例えばそれは夏草の陰

ひょっこりと顔を覗かせて
帰って来たよ、と
悪戯小僧が笑うこと


 *
去年よりは少し進化した少年が
新たな課題を求めて小さな冒険を始めようと、擦り切れた図鑑を片手に小躍りをする
僕の中には取り残された宿題が山積みで
進化する速度が追いつかなくて
苦笑いしながら書き足す絵日記の1ページ

年々、変わって行く西瓜の味に
味覚が鈍ったとは嘆かずに
西瓜の味が落ちたんだと、しかめっ面する父さんの顔が
雲の切れ間に浮かんで消えた午後

暑くならない夏と
熱くなる夏


 *
何時だって
世界は僕等を愛しているんだ
愛する人をなくした後も、こうして僕らを育んで行く
過ぎて行く時を愛しもう
来年もまた、夏はやって来る
僕らは記憶の欠片を少しずつ取り出して
山積みになった宿題を片付けて行けばいいのさ


遠い夏、夏休み
熱い夏と暑くならない夏と
父さんの笑顔と
僕の苦笑い

一つに融けて
終わらない夏休み





自由詩 夏休み Copyright 遊佐 2009-05-31 01:08:34
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