行列
あすくれかおす


そなたは夕顔をしている
両目が回転する
ロックアイスを部屋中に反射する
瞼が目だけを慈しんでいる
開いている間の暗闇は不穏だが
閉じている間の暗闇はやさしい


野方図な木々を風よけにして
真夜中に投球練習をしたくなりしにいく
振り向きざまにフォークボールを投げるのは
愛していると無意識に書くことくらい
口を閉じたまま集中することくらい
悲しいくらいに難しい


クローバーたちがプロペラになって
いっせいに野原を飛び立っている
残された古びた茶色い地面に座り
かなたは昼顔を思い出している
残像になる方法論を知らないので
ここから微動だにしない
指を上下させてみる
まだ拍をとることができる
まだ縦書きができる
文字が窓に映るのは冬だけであるが
同じようなことを別の時節にも考えるのではと
見えざるままでも文字のない
大部屋の窓をときどき見てしまう


ペンシルロケットを分解しながら
公園のベンチで怠けている
ぜんぜん空しくなくて
涼しくて好き
だけど何の
素晴らしさも変哲もない
もぞもぞとカレーライスを食べている
ああそういえばごめんよ
6月の雨をぜんぶ使いはたいちまったんだ
雨の代わりに海を降らすけど
なめるな
塩っけのある世界中の
血のプレッシャーが高まる
ざわつくのは
過ぎ去ったもののためであるか
まだ来ぬもののためであるか


ホーム以外の場所で
いままで何度くらいの朝を迎えただろう
昔からふつうに朝顔の手入れができない
じょうろがそこにあっても
傾けることができない
昔からそういう当たり前を
ずっとランドサットみたいに眺めるのが午前の役目で
午後の役目は人として笑うこと
どれくらい前から
これから先は


深夜のショッピングモールで
すべての洋服のタグを引きちぎって
すべてを笹の葉に
短冊がわりに結んで帰る
すべての洋服はカートの中に均等にいれる
明日の客たちの好みは知らないが
明日の客たちは早いもの勝ちなんだ
血のプレッシャーが高まる
微動だにしない自動ドア


銃口はいまどちらにむけられているのだろう
見よう見ようとする視力を失ってからどれくらいたったのだろう
命はぽろぽろと開き続けて
命はぽろぽろとしまわれていく
半開きの蛇口がいたるところにあって水が
栓がないバスタブの穴を目指しつづける
どれくらい前から
これから先もずっと


いつまでもおびえたりしない
いつまでもそびえたりしない
いつまでもねむってばかりじゃない
いつまでもしゃべらないままじゃない
ただ今はこのようにあるだけ
ただ今は
きみの静寂のなかに
この文字がしばらくうかんできえる
いつまでも会えないわけではない
冬の窓文字とおなじ言葉が
ただ今は見えないままなだけ
閉じているときほどやさしいから
ぜんぜん空しくなくて
冷んやりして好きだけど
突然じゅって音がして
ひと粒が蒸発してしまうような熱が
ふたたび君の口から語り出されることもあるかもしれない
そのような熱が
そのような熱が
ただ今はそこで
ただ今はここで
むやみに見えたりしないだけ








自由詩 行列 Copyright あすくれかおす 2009-05-30 22:31:35
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