祭りの夜
kauzak
彼女と手をつないで今夜
麓の街で開かれる
夜祭りを見に行く
月明かりが硬く降り注ぐ
蒼ざめた石畳の街の四隅に
かがり火が燃える
やがて大弓を載せた
台車が四隅から繰り出して
街中に百合の花を振りまく
静まり返った街を
ゆっくりと揺り起こすように
優しく撫でる
街灯にもたれて
百合の花を胸に挿して
静かな熱気を感じている僕ら
その前をギシギシと軋みながら台車が行く
大弓はもういつでも発射できるくらい
引き絞られ張りつめている
時計台の鐘が零時を告げる
どこからともなく湧き上がる鬨の声
台車は手綱の外れた馬のように
かがり火を目指して突進する
いつのまにか降り出した霧雨が
石畳を濡らす
かがり火のある泉の広場への道は細く
台車はその入り口で行きつ戻りつ
なかなか辿り着けない
いつしか僕らは夢中で台車を押し汗まみれになる
ようやく台車は細い道を突き抜ける
と同時に
引き絞られた矢がかがり火に向かって放たれる
かがり火が消えた瞬間
歓喜の叫びが広場を埋め尽くす
僕らも叫びながら空へ墜ちて行く
余韻を味わうまもなく潮が引くように
歓喜の渦はためらいもなく去り
僕らはつないでいた手をゆっくりと放す
安らかに眠るために