世界とゆびきり
百瀬朝子
僕らは約束をかわしていた
生まれてから今日まで一人で生きてきたつもりになって
世界なんてクソ喰らえって
地面に唾を吐いたりして
反抗心を燃やすことばかりに夢中になって
大切なものをそっと抱きしめる心を忘れて
いつかかわした約束もどこかへ置いてきてしまった
朝日を浴びて眠ろう
夜は一人がこわいから
右手の小指を眺めて焦燥
何かしなくちゃ
でも何を
わからない
もう戻れない
それだけは知っていた
この足は一歩も前に踏み出せないままだけど
二人の時間はなかったことにできなくて
それなのにあの時感じたよろこびやぬくもりが
時の流れに溶かされてゆく
形あるものにとらわれて身動きできなくなっていた
もたらされた自由は僕を救うことはなかった
水槽の水はにごっている
溶けたものたちが混沌としている
整理整頓が苦手な僕は散らかった部屋をただ眺めている
かえらないものを嘆きながら
星の瞬きに目を覚ます
届かない願いは流れて消えた
僕らは約束をかわしていた
大切なものをそっと抱きしめて眠ること
生まれたときからの約束
世界とゆびきりした二十三年前の今日
僕は産まれたんだ