泣かない人
小川 葉

 
 
一人だけ居残って
いつまでも待ってたけど
母さんは
迎えに来なかった

ふと考えてみたら
僕は高校生になっていた
幼稚園じゃあるまいし
なぜあの時
そんな勘違いしたんだろう

時は過ぎて
大人の僕が
一人だけ居残って
残業してると
母さんは迎えに来てくれた

ごめんね
遅くなって

おんぶして
やさしい声で言う
懐かしくて
あたたかい背中

父さんは?
まだ仕事よ

小さな家が見えてくる
夕日が沈む
その家で僕は生まれた

いつか息子も
高校生になるんだろう
そしていつか
誰も迎えに来なくても
泣かない人になるんだろう

居眠りから目覚めて
残りの仕事を片付ける
今の僕には
迎えに来なくても
待ってくれる人がいる

朝になった

朝日が昇るその辺りに
僕の家がある
家族と一緒に暮らしている
 
 


自由詩 泣かない人 Copyright 小川 葉 2009-05-30 03:04:27
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