世界エスカレーター
小川 葉

 
 
小さな頃から夢だった
エスカレーターを家に取り付けるため
大人になると僕は
さっそく業者を呼んで相談した

ところがこの家には
二階も地下室もないので
どこまでも上り続けるか
下り続けるしかない
エスカレーターの設計図を見せられながら
困った顔して説明を聞くのだった

同席してる妻に相談すると
上にも下にも行かなくていい
エスカレーターはないものかしら
たしか東京の駅にあったわ
と言うので

数週間後
我が家に念願のエスカレーターが完成した
妻と息子と三人で乗る
家の中をぐるぐる回り続けるだけで
僕らは楽しい
幸せもそこで回り続けているように

ある休日
誰とはなしに
どこかへ出かけようと言う
回り続けながら
時々そこから逃れたくなるのだ

どこへ行こう
そんな話ばかりしてる
上にも下にも行かないエスカレーターに乗りながら
ここがどこかへ運ばれてる感じがしてる
僕らは回り続けながらそのことを
忘れないように思い出している
 
 


自由詩 世界エスカレーター Copyright 小川 葉 2009-05-29 03:34:50
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