湯豆腐
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あなたの小さな冗談に
わたしは声を上げて笑った
あまりにお腹が苦しいので
あなたの腕をたくさん叩いた
あなたは少しも怒らなかった






紅く、
花びらの咲いたようなおちょこに
とうに匂いの消えた吟醸酒
あなたは一口に飲み干し
今度はとても、大きな冗談を言った











ことばはすぐに、はじまりのようなものをつげる
ことばはすぐに、おしまいのようなものをつげる






嘘ばかりのわたしはうなづいた
なにも言わずにあなたは微笑む








ことばはかんたんに、はじまりをつくることができる
ことばはかんたんに、おしまいをつくることができる















雲にかくれて、
つづいてゆく日々はおぼろに月
なべに浮かぶ春菊のみどりと
落ちてゆく、声はどうしようもなくあなただけのもの
 湯気のあいまに 白くくずれる
   掬いきれない
         ちいさなかけらと

  手のひら、
         ふたつ、

  
     ひらひらと、孤独。


自由詩 湯豆腐 Copyright ask 2009-05-29 02:40:14
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