メルヘンの影 変身 梟の首
青の詩人
夢を見ない者たちに
夢を届けにゆきなさいと
言われ
白鳥は怖気づいた
飛び立ってしまったら最後
戻れなくなるような気がしたから
その昔
どこかの国の王子だった
ことも忘れて
目に映る魚だけを
せっせと飲み込んでいた
水しぶきがお話する朝
真実は曖昧だ
変は外から訪れる
春がそそくさと去る少し前に
あくまで自分のためだけに
したためておいた翼を
初めて自分以外の
誰かのために広げた
その羽が
物語の一頁目
侵食が
この森ではじまったと
知恵ある魔女たちの噂
現を飲み込みし夢
ちょうどその頃
湖の
底のほうで
顔を出した魚が
フィクションか否かなんて
もはや誰にもわからない
幾夜が経っただろうか
嘘が真実と呼ばれ
恋がメルヘンやロマンスの
イメージを帯びるようになってから
月が空を走り
梟が首をかしげるようになってから
何も飲み込めはしまい
飲み込むふりをするだけで
魚に美しい名を与えるだけで
詩人とか
魔法使いとか呼ばれた
そんな御伽噺の続きを
聴かせて
ねぇ
とせがむ女の
正体を僕は知っている