ウミナリ
靜ト

明日は海が見えるといいな
この窓は晴れた日に水平線が見える
きらめいて きらめくたびに
海鳴りよりも遠くて深い いつかの音がする
胸の奥にいつのまにか 残してしまった


*真剣な話をした
 例えば生きることの
 例えば死ぬことの
 例えば愛することの
 大事な友人に
 泣きそうな熱さで
 けれども友人は
 笑ってこう言った
 「もっと楽しい話しよ」
 私も笑った
 楽しい話をした


風船を飛ばす癖のある子供だった
家に帰るまではしめった手で痛いほど紐を握りしめているのに
どうしてか 家に着くと飛ばしてしまうのだった
明るい赤色が遠ざかってゆくのを見上げる気持ちは
大人になった今もかんじる   風船はもう無いのに

雨ニモマケズをよんだのは 小学校三年生の時で
学校を休んだ昼下がりのベッドにぺたんと座っていた
「サウイフモノニ ワタシハ ナリタイ 」
子どものくせに涙を流してそこばかり読んだ
今読んでも泣けてしまうけれど
こんなに時が経っているのに
あのときの涙と いまの涙は どうして変わらないのだろう
あの詩を読む時はいつもひとりだ


*真剣な話をした
 例えば生きることの
 例えば死ぬことの
 例えば愛することの
 大事な友人に
 泣きそうな熱さで
 けれども友人は
 笑ってこう言った
 「もっと楽しい話しよ」
 私も笑った
 楽しい話をした


海鳴りが聞こえる
この窓を 窓に触れる指先を震わせて響いている
胸の奥にいつもあるものは
照らされたら黙ってきらめいてしまう
見えないあの海みたいに

明日は海が見えるといいな
この窓は晴れた日に水平線が見えるから


自由詩 ウミナリ Copyright 靜ト 2009-05-28 21:28:06
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