思い出の宿る場所
麻生ゆり
あなたと住んだあの街を
今日久しぶりに訪れてきたよ
駅の改札でスイカが使えるようになっていて
なんだか不釣り合いな感じがした
私が働いていたビデオ屋さんが
つぶれていて驚いた
ほかにもいろいろ
無くなったり
新しくなっていたりした
だけどここは確かに
あなたと住んだ小さな街
そこここに散らばった思い出のカケラたちが
忘れていたはずの慕情を揺り動かす
30分に1本の電車が止まる貧弱な駅…
買い物に行ったスーパー…
あなたを迎えに行った病院…
自炊を無視して通ったレストラン…
顔見知りになった駐輪場のおばさん…
瞳をつぶれば
未だに鮮やかに蘇ってくる
ここは
忘れることのできない
温かな安らぎで満ちあふれている
ただ違うのは
隣にあなたがいないだけ…
あまりにも切なすぎて
車1台がぎりぎりのあの小道を
あの木造のアパートを
訪ねることはできなかった…
だけど私はこの街を
あのとき育てたあなたとの愛を
記憶から消すことはできない
今は遠いあなたは
このどこかしょんぼりとした街を
私を
思い返すことがあるのでしょうか…?
あなたと住んだこの街を
いつかあなたと
笑い話に変えられたらいいと
今
切に願う