祝婚歌
rabbitfighter
耳を澄まそう
日が翳り
灰色の雲が天蓋を覆う
低く垂れ込めて
最初の一言を
ポツリ
と
耳を澄まそう
これは
幾千億の雨粒が語る物語
その一粒一粒が
君に語りかけている
君を取り囲む世界のすべて
君の家の屋根
駅へと続く長い坂道
舗装された道路
空き地や畑や川の土手
君が乗る電車の窓
君の差すオレンジ色のビニール傘
君を取り囲む世界のすべて
そのすべてに降り注ぐ雨が
君に語りかける
君にだけ
静かな情熱を持って
特別な物語を
だから
耳を澄ませ
そして
目を閉じて
すべての雨粒を
君の心の海に注げ
その海からまた新しい物語が立ち昇るだろう
暖かい日々の物語が
明るい日々の物語が
穏やかな日々の
寒々とした日々の
君の歩む
すべての日々の
物語が君に降り注ぐだろう
そしてそれは
君の物語でもある
そしてそれは
僕の物語でもある
それからもちろん
僕たちの物語でもある
なぜなら雨は
すべての人の上に降り注ぐからだ
なぜなら雨は
すべての人の心に降り注ぐからだ
物語はきっと
誰の心の中にもあって
いつか語られる時を待っているのだろう
その物語を
僕たちは未来と呼び
僕たちは希望と呼び
僕たちは悲しみと呼び
僕たちは痛みと呼び
あらゆる名前で呼び
あるいは名前を持たないまま
混ざり合い溶け合って
また僕たちはそれをただ物語と呼び
やがて雨が物語るのを聞くだろう
雨よ
世界が干からびてしまわないように
いつまでも降り注げ
そして君は
日々降り注ぐ雨に
その耳を澄ませ