減ること。
高橋魚

だらしなく広がる巻層雲に横たわる私だったが、何も香ってこないので、イヤホンを外し接触を始めることにした。

ちゅんちゅん。
透いた空中を流れる声。
明らかに小鳥の発するものだった。

私は瞼の裏にその映像を描きながら、陽光と陽熱との柔らかな協奏曲を枕として、ただ、横たわっていた。

またちゅんちゅんと音がした。
またちゅんちゅんと音がした、またちゅんちゅんと音がした、またちゅんちゅんと音がした。

私はそれを瞬間として捉えることが出来ず連続として捉えたので、その声の墜落してゆく姿を浮かべてしまい悲しくなった。
墜落した場所は
その声自体の重量に耐え切れず
地割れを起こした
やがて、そこから臨く深い闇のなかに小鳥自身も墜落するのではないか、そう私は思った。

しかし、死人のように横たわるだけの私にとっては
墜落してゆく声達は
艶めかしさ以外の何物でもなかったのだ。

私は焦がれていた、その懐かしい重量に。
横たわる私は
捨てられた紙屑のように
風によって動くだけで
紙屑は紙屑自体によって動かされることはないのだ

私は
夢の中にいるのだろう
私を誘うものは何もない、夢の中に


私の声は
それほど重くないので
墜落しても
地割れを起こすこともなく消える
私も
重量のある声を発したい
誰かに届けたい
耳を澄ましていたい
そう、思いたいのだ。


自由詩 減ること。 Copyright 高橋魚 2009-05-26 00:40:54
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