悲しみを見失って
kauzak
慌ただしい朝
出勤前に身だしなみを整えていたら
妻から声がかかる
バァチャンガナクナッタ
僕らの結婚当初からお世話になっていた
九州から出てきた妻は母親代りに慕っていた
おばあちゃん
亡くなった
と聞いても心が揺れないのは朝の慌ただしさの為か
それともおばあちゃんの病状を逐一きいていた為か
悲しいって感情を僕は感じたことがある
のだろうかと唐突に思う
寂しいとか悔しいとかそんな感情は
いまここでも思い浮かべることができる
けれど悲しいという感情は思い浮かべられない
悲しい情景が先行して
悲しいという概念が先行して
ひどく抽象的なのだ
あまりに唐突だった親父の死
現実を受け入れられないままに
荼毘に付してしまったから
悲しみを落としてしまったのかもしれない
バァチャンガナクナッタ
心が揺れないのは朝の慌ただしさの為か
それとも悲しみを落としてしまった為か
寂しさは募るけれど