悲しみを見失って
kauzak

慌ただしい朝
出勤前に身だしなみを整えていたら
妻から声がかかる

 バァチャンガナクナッタ

僕らの結婚当初からお世話になっていた
九州から出てきた妻は母親代りに慕っていた
おばあちゃん



亡くなった

と聞いても心が揺れないのは朝の慌ただしさの為か
それともおばあちゃんの病状を逐一きいていた為か



悲しいって感情を僕は感じたことがある
のだろうかと唐突に思う

寂しいとか悔しいとかそんな感情は
いまここでも思い浮かべることができる
けれど悲しいという感情は思い浮かべられない

悲しい情景が先行して
悲しいという概念が先行して
ひどく抽象的なのだ



あまりに唐突だった親父の死
現実を受け入れられないままに
荼毘に付してしまったから

悲しみを落としてしまったのかもしれない



 バァチャンガナクナッタ

心が揺れないのは朝の慌ただしさの為か
それとも悲しみを落としてしまった為か

寂しさは募るけれど


自由詩 悲しみを見失って Copyright kauzak 2009-05-25 22:44:23
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