風になる
小川 葉

 
 
治りかけの痔が
痒くて気持ちいいのだと
祖父は言った

痔は治りかけてるのに
とも
祖父は言った

私は誰もいない公園の
ブランコに乗り
治りかけの痔について
考えていた

そうしている
懐かしさにさえ
気づくことのないまま
ブランコに乗る
私はいつしか
引き寄せる力と
離れようとする力について
考えていた

葬儀の日
私は二つの足が
地面にぴったりと
着いてることについて
考えていた

治りかけの水虫を
痒くて気持ちよさそうに
その地面に擦りつけている
父の足を見て笑った

治りかけの私の中心が
きゅうに
痒くなりはじめていた

祖父が焼かれると
どこからか風が吹いてくる
その頬にもあたって
気持ちよさに目を細めてしまった
祖父とおなじもののように
 
 


自由詩 風になる Copyright 小川 葉 2009-05-21 02:44:02
notebook Home