「五月の風にさそわれて」
ベンジャミン

誰に教わったわけでもないけれど
新しい始まりの予感は
そうやってくる

五月の風は
そんな淡い期待を感じさせる
芽吹きの音が聞こえてきそうな緑色で
あなたは窓から入り込んでくる風を
そのまま吸い込むように深呼吸しながら
まるでその芽吹きの瞬間を知っているかのように
見える景色の端から端までを見渡して
小さく笑っている

初夏ですから
でもまだ初夏と呼ぶには早すぎる日もあって
五月の風にあたっているあなたが
両肩をすくめて抱きかかえるのを
僕は少し心配したりするけれど
あなたはそんな心配をかき消すように
庭で咲きそうな花の名前を
楽しそうに教えてくれる

そんな小さなやりとりを
五月の風はさらってゆきます

庭に出て手招きするあなたは
僕が名前も知らない草木の一つ一つの
その先にほっこりとふくらんだ緑色のいのちを
やわらく包み込むような笑顔で
「いつ咲くのかな?」
なんて
僕が答えられないことを知っていてきくのです
「早く咲くといいね」
なんて
けっきょくはまたそっちに目を向けて
僕にはその背中が
眩しくて仕方がないことなんて知らないで

だからというわけでもないけれど
五月の風にさそわれて

僕の部屋では
近くの図書館で借りた植物図鑑が
五月の風にめくられるのを待っています
 


自由詩 「五月の風にさそわれて」 Copyright ベンジャミン 2009-05-20 18:46:03
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