風の吹く街
キエルセ・牧

コンクリートブロックを敷きつめた街に
私 は裸で腰かけている

見知った声が聞こえたので左手を上げて後ろを振り向いたが
誰もいないのを確かめただけだった

何故なのかを思い出すことは
当面の目的では無いしそして苦しいけれど
次のことが大事なことだ

風 が吹かなければ何も感じない
一人だこの街は 私 一人だ


* * * 


彼 の黄色に濁った眼差し
熱く囁かれた 嘘 の話

アイスホッケーの話だ
何年も昔のカナダの都市で行われた大学生の試合
ルールも知らない 私 がわかるすべのない話

その話は 彼 によって繰り返し話される

スティックが折れ選手の膝に刺さったらしいスティックが
刺さったままフェンスに激突した選手が 彼 のホームステイ先の
ホストファミリーのお気に入りの選手でその選手を皆で観に行った試合で
それが起こったという話それが悲惨だったという話


* * * 


尻から脇にかけて冷えてきたので
私 は立ち上がった

皮膚にめり込んだ破片を丁寧につまみ
私 の体に呼吸を合わせた
歩き出すことに意味を感じなかった
よく理解できたことが分った

風 が吹いた
私 が消えた
彼 と 嘘 は残った

左手を上げた 私 の影が
街のコンクリートブロックに残った



09.5.19


自由詩 風の吹く街 Copyright キエルセ・牧 2009-05-19 23:55:43
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