呼吸
乱太郎

砂浜を撫でる乾いた風が
肺から循環する
感傷の毒を洗い流し
ただ瞬間だけを咲かせる

吐く息はいつも
黄痰に鎖を繋がれ
夢の欠片も存在しない

一本の座標軸に
流され惑わされながら
いつまでも
比例級数出来ずにいる自分がいる



  *



深く息を止めて

移動診察車に閉じ込められ
知りたくもない
自分の欠陥を写される

二週間後
赤い召集令状が届く


あなたから傲慢の腫瘍が見つかりました
まだ小さいですが
放っておくと
あと一年で全身に転移します

最寄りの宗教団体で診察されたら良いでしょう



    *



わたしは青い空をいっぱい吸い込んで
人気のない森の奥の澄んだ湖の底に沈めます
それでもわかってもらえないでしょう
いつもただ優しく微笑んでいるあなたには
ひとりぼっちの蘭の花
咲いていることさえ気づいてもらえない
あなたはいまも何気なくわたしを揺らす風
涙で溢れそうになっているわたしの湖だけど
必ず見つけてほしい
あなたの風にさらわれる日を待っている


自由詩 呼吸 Copyright 乱太郎 2009-05-19 14:49:41
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