トワイス・アップ(トワイライト)
nm6

たくさんの魚が、ほとんどのそれらが虹色で、真夜中の信号機が赤だというのに、ずっと点滅したままの赤だというのに横断している、横目に見ながら、触れそうで触れない手が魚のそばで踊っている手を、高校生とおぼしきふたりを後ろから、つい本意であとをつけてしまった、そういえば興味のあれは四月とおぼしき高校生だった。なぜならの桜が、ほとんどのそれらが虹色で、真夜中の信号機さえも桃色の頬に、冷たく染まっていたままで横断しているぼくらもたくさんの魚も、触れそうで触れない過去の話に、もといそんな過去の話ゆえ、そういえばあれはいつのことだったかね、と、横目に見ながらおそるおそるに尋ねるのは手を、たいてい手を、不機嫌がちなきみの手を、喪失がちなぼくの手を、点滅したままの赤の手を、たくさんの魚が横断する交差点の手を、今頃に肌寒く思い起こし濡れた。



ウィスキーが海岸で豊穣に息をしている、
なみなみなみと。



なみなみなみと、みなみのみなとの、とみのみみのと、みととのみなの、との、のみのみのと、なみ、つゆだくの、午前2時。を、黄金色のつゆの、米粒に吸い込んだ宇宙のようだ、だくだくと、虫眼鏡で何文字も書いたあの過去の話ゆえ、そういえばあれはいつのことだったかね、と、母親にたずねるぼくの手を、つゆでだくだくだくの手を、不機嫌がちな店員の手を、喪失がちなぼくの手を、点滅したままの赤の手を、たくさんの魚が横断する交差点の手を、つゆと忘れたはずの思い起こし揺れた。

じっと手を見る。



あ、
あの魚は虹色だ、
ニジマスってあんな色?
ちがうよ、あれはただの虹色の魚だ、
絵になるね、
ああ絵になるね、
真夜中の絵になるね、
街灯、消えた、
なんでかね、
なんでだろうね、
いいにおいがする、
いいにおいがする、
どうしてもいいにおいがする、
いいにおいがつよすぎてくるってしまいそう、
いいにおいがつよすぎるね、
いいにおいなのにたすけて、
たすけてだれか、
だれかたすけて、
たすけて、



そしてぼくはひとりで部屋でウィスキーを飲んでいた。
ウィスキーに朝はこない。


自由詩 トワイス・アップ(トワイライト) Copyright nm6 2009-05-19 02:44:59
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