辺の音
木立 悟






すぎるものが
激しく影を投げ捨ててゆく
そのままをそのままに伝えぬための
激しい縦の音がつづく


暗い虫が空を突き
風は夜明けよりもわずかに明るい
光は曇をふりかえる
曇は曇のままでいる


用意は用意されていたか
許しを得ねばならぬものか
許しを得ねばならぬものなら
すべて跳び越え すべて踏み越える


爪で圧せる範囲
爪で隠せる汚れ
呑みこんでいる 冬の原の色
呑みこんでゆく


明るい 冷たい
ひとり 明るい
どこまでも馳せる
ひとりはためく


夜は夜を借りて降り
川の洞のすみ じっとしている
宝石を見つめる宝石
波に残された波の原石


金属の草が擦れあう音
粉なめる猫は人語を解し
だがいつまでも語らぬまま
森のなかの野に踊る


白があり 傾きがある
夜の波に声は混じる
水の羽 水の羽
発ちつづけても波は果てない


縦の音が狭まってゆく
鍵は壊れ 街ははばたく
砂も水も陽も針も
息の時間を見つめている


呑みつづけ呑みつづけ呑みつづけ
流れ去らぬものこそが
常に常に降るものと知る
常に常に忘れ去りながら


紡いでも紡いでもほどかれてゆく
紙をひきちぎる間に消えてゆく
夜の朝 夜の昼
夜の午後に照らされる指


灰が灰を終え
赤を残す
鳥と遊ぶ子
明くる日のうた


糸にくるまれた機械が地にころがる
ひとつの歯車が陽を向いている
壁は木 窓は木
外は木 空は木


踊ることをやめ猫は目をそらす
森の内側にさす影から
右半身だけ逃れている
そびえている 水の音が そびえている


黒はあつまり
まなじりはしびれ
抄いも救いもない手のひらを
音は流れ落ちてゆく


陽の頬が呼ぶ声
金と緑の飾り羽根
晴れと雨のはざまの森を
手のひらは静かに分けてゆく





























自由詩 辺の音 Copyright 木立 悟 2009-05-18 17:41:42
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