懐かしみ
小川 葉

 
 
妻が
手袋を
編んでいる

早く手袋に
指を通したい
わたしと妻の
子供が待っている

やがて
できあがると手袋は
子供の指に
通されたくなっている

指を通す
子供の指が五本ずつ
ちゃんとある
当たり前のことに
あらためて幸せを
感じている

妻も子供も
手袋も
そしてわたしも

あるものだけが
ここにいる
懐かしさが
ないものを
置き去りにして

過ぎてしまうものたちが
懐かしいと
思うには早すぎる
今なのに

ここにいる
懐かしさばかり
わたしたちは
知っている 
 
 


自由詩 懐かしみ Copyright 小川 葉 2009-05-17 22:42:58
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