美しいくも
北乃ゆき

庭の片隅の腐りかけた胡瓜の上で
どす黒さと白色の縞々な腹部を持った蜘蛛が
不気味な茶色の8本の足をゆっくりと動かしている
この腐った胡瓜の上に居住地を作る気なのか
蜘蛛はひたすらに8本の足を動かし
身体の後部の腺から命の綱を生み出している

粘る糸をじっとりと編みこみながら
糸は強力な粘着性を持って
罠となる居住地を完成させていく
踏み込むものに毒を与え
生き血をすすり
最後に死を与え安楽させる居住地

美しい

その総てが美しい

他者を罠に落としいれ
苦しませ殺す事でしか生きる術のない
お前の縞々の腹部は
この世界に必然的に存在するカオス

だからこそ芥川は
お前の生み出す銀の糸を
最後の希望と語ったのだろう

編み出された
無造作な模様にやがて訪れる残酷な光景は
この世界のたわいもない真実の一片



自由詩 美しいくも Copyright 北乃ゆき 2004-08-30 07:07:02
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